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 ロバート・B・ライシュ(Robert B. Reich)の「Aftershock」(日本語版は「余震(アフターショック) そして中間層がいなくなる」の要約

余震(アフターショック) そして中間層がいなくなる (amazon)

Aftershock: The Next Economy and America's Future(amazon)

イントロダクション「歴史は繰り返す?」

なぜ多くのアメリカ人が経済的に苦しいままなのか?
なぜアメリカの政治がこれほど怒りに満ちているのか?
これから数年の間、アメリカ人はどんな根本的選択を迫られるのか?
本書の目的はこの点を読者に示すこと。

この三十年、所得全体に占める勤労世帯の収入割合はますます小さくなり、より多くが富裕層上位に集中している。つまり、所得と富が富裕層トップに集中している。

富裕層以外の購買力は弱くそのため経済は好況を維持することが難しい。

所得と富が富裕層トップに集中していることが、米国経済が直面する苦悩の核心。

この問題に取り組まない限り、米国に底堅い好況はやってこない。政治が混乱し、保守化するおそれがある。

中間層が十分な購買力を持たない限り、確固たる経済回復は望めず、経済は長期にわたって停滞する。

第Ⅰ部 破綻した取引(The Broken Bargain)

第一章 エクルズの洞察

マリナー・エクルズはアメリカの実業家で1929年の大恐慌を経験した。

エクルズは大恐慌について「大きな経済力を手にした人間達が、経済ゲームのルール形成に過度に影響力を持っている」と指摘した。経済ゲームが公平なものではなく、富と権力が集中した一握りの人々を利するものになっていると判断した。

エクルズは1933年2月の上院財政委員会の公聴会で「政府は消費者や企業の支出不足を相殺するため債務を増やすべき」と発言、「中間層に富を移転する具体的プログラム」を提案した。

1950年に引退したエクルズは、回顧録の中で大恐慌の主因を「富の偏在」だと結論付けた。一握りの富裕層の下に膨大な所得が蓄積され、他の階層の購買力を吸い上げてしまった。

「不平等の拡大が大恐慌を引き起こした。」これこそがエクルズの最重要の洞察。

第2章 二つの恐慌の類似性

エクルズの洞察は、最近何処かで聞いたことのあるような内容だろうが、それは偶然ではない。

1929年の大恐慌と2007年の大不況の類似点を3つあげる。

類似点(1)所得格差が拡大した。

類似点(2)中間層が消費を続けるために負債を膨らませた。

類似点(3)米国の富裕層は増大する所得と信用を利用して限られた資産に投資し、バブルが発生した。

1920年代と2000年代の相違点。1920年代、政府は改革に取り組み(改革の詳細は後の章で取りあげる)、新たな経済秩序をもたらした。いっぽう2007年に始まった大不況は新しい経済秩序をなんら創出していない。

オバマ政権は多額の資金を投入することによって大恐慌の再現を防いだ。しかし、その結果より重大な問題を後回しにしてしまった。


第3章 あるべき取引

ケインズは失業の原因は「需要の不足」であり、一般労働者の購買力が彼らの生産物を変えるほど大きくはないことに起因すると考えた。(「総需要の維持」の重要性)

またケインズは「消費性向を高めるような所得の再分配を行えば、資本形成に好適な状況となる」とも書いている。(筆者の言う「基本的な取引原則」の実践


第4章 富の集中が不況を招く

エクルズが指摘し、ケインズが理論化した経済問題、それは「所得が比較的少数の人々に集中すると、財とサービスに対する全体的な需要は縮小する。」総需要にもっと着目すべき。

経済成長の果実を広範に共有するシステムを作るには、金融経済だけではなく実体経済にも着目すべき。

第5章 政策当局が金融経済を怖がる理由

経済の政策立案者は「金融業界の健全性は、実体経済の繁栄の前提条件である」「ウォール街が活況を呈すれば、実体経済も必ずそれに続く」と思い込んでいる。

しかし、実体経済の住人である企業がウォール街に依存するようになったのは比較的最近の現象。それまで、企業は資金を地方銀行や貯蓄貸付組合から調達していた。

クリントン政権時代に投資銀行と商業銀行を分離していた法律が廃止された。

結果として、ウォール街の主機能は金融の衣をまとった賭博に変わってしまった。以来、金融経済と実体経済はかけ離れたものになってしまっている。

第6章 大繁栄時代 1947~75年


1947年から1975年にかけての30年近くを「大繁栄時代」を呼ぼう。この時期にはアメリカ全土できちんと「基本的な取引」が実施されていた。つまり、労働者が生産していたものを購入できるだけの十分な給与が、労働者に支払われていた。

政府は中間層に繁栄の分け前を十分与えられるような「コンディション」を積極的に整備した。

ルーズベルト大統領はケインズ主義の正しさを証明することになった。それはニューディール政策によってではなく、第二次世界大戦時における驚愕の軍事支出によって達成された。

労働条件の向上、失業給付、各種の社会保障制度、高齢者と貧困層向けの医療保険が導入された。安心と安全が国民に供与された結果、労働者はより多く消費するようになった。

東西冷戦による防衛支出の拡大は民生分野への余剰効果を生み出し、産業を発達させた。

政府は、こうした政策の歳出を、所得を急増させつつ拡大する中間層からの租税負担でまかなっていた。高所得層の所得税率は戦時中と同じ高い水準に据え置かれた。しかし、高い税率もアメリカの成長や繁栄を妨げることはなかった。

「大繁栄時代」は所得の広範な分配が経済成長と両立可能であり、むしろ経済成長に不可欠であることを証明した。

第7章 歴史は繰り返す

1980年代に入り、時間当たりの産出量(生産性)が上昇し続けるいっぽうで、一時間当たりの平均実質報酬は伸び悩むようになった。

報酬の伸び悩み、所得の伸び悩みの原因として「グローバル化」や「オートメーション化(機械化)」を挙げる人は多い。しかし、アメリカ人の働き口を減らしたのは貿易や技術ではない。

ここ三十年の失業率の増減は景気サイクルと軌を一にしている。問題はむしろ人々の「賃金」が上昇していないことである。1980年から2000年にかけてアメリカの賃金の中央値は横ばいになっている。その一方で、大企業やウォール街の頂点で仕事をする「才能ある人材」に支払われる報酬は急上昇している。

この時期の政府の政策。規制緩和と民営化、公的高等教育の受益者負担増、インフラ老朽化の放置、セーフティーネットの縮小、所得税率の軽減と中低所得者層の租税負担の増加。確定給付年金から確定拠出型年金への制度変更、医療保険制度の変更。

企業による雇用と賃金のカット、手当ての引き下げ、労働組合の弱体化も進んだ。

また政府は金融自由化を進め、金融業会の損害を補填した。これによって、金融部門はアメリカ産業界の支配者になった。彼らは長期的利益よりも短期的利益を求め、アメリカ経済を食い物にした。

なぜアメリカ経済の振り子は「大繁栄時代」から逆戻りしてしまったのだろうか。

その原因は所得と富が一部の人に集中したことによる。アメリカの政治は「大きな経済力を手にした人間たちが経済ゲームのルール形成において過度な影響力を持つ」状態(かつてマリナー・エクルズが指摘した状態)に逆戻りしたのだ。

政治運動に莫大な献金を行い、数多くのロビイストや広報コンサルタントを動員し、富裕層は数々の法改正を成し遂げ、その結果、さらなる所得と富を手にした。

第8章 消費し続けるアメリカ人-三つの対応メカニズム


アメリカ人が経済の「振り子の逆戻り」を受け入れたのは、自分達でその影響を和らげることができたからでもある。

1970年代後半から、アメリカの中間層は「三つの対応メカニズム」に磨きをかけ、「大繁栄時代」と同じ消費を続けた。

 対応メカニズム1-女性が労働市場へ進出する。これは過去四十年に起きた最も重要な社会的経済的変化であり、アメリカの家族を再形成した。

対応メカニズム2-誰もがより長い時間働く。2000年代の大不況が起こる前までに、アメリカ人の平均年間労働時間は2200時間を超えていた(これは日本を超える長時間労働)

対応メカニズム3-貯金を取り崩して限度一杯に借り入れる。対応メカニズム1・2が機能しなくなったあと、アメリカ人は貯金を切り崩し、借金を増やした。

このように中間層の消費者は「最後の手段」として借金漬けになった。賃金は上昇しない中で、それまでと同じ消費を続ける方法が借金だった。しかし、それも現在では不可能になった。

第9章 対応メカニズムのない未来

オバマ大統領は就任時、喫緊の課題であった米国の巨大な債務、住宅ローン問題、金融システムの救済に目を向けた。

しかし「経済の基本的取引」が復活しなければ、経済は不安定なまである。たとえ経済が回復したとしても、それに持続性はない。

第8章で書いたアメリカ国民の「対応メカニズム」はもはや通用せず、対応策は尽きている。女性も男性も、長時間働く意思と能力があっても、それに見合う仕事の数も労働時間もない。

長期的には雇用ではなく「賃金」が課題になる。雇用はそのうち回復するだろう。しかし、賃金は低くなり、不平等が拡大する。しかもアメリカ人の多くは借金をあっ変えている。

結果として中間層の消費は大不況の前と比べて少なくなるだろう。買換え需要はあるものの、それだけでは持続的で力強い回復は不可能だ。

アメリカの富裕層が消費を牽引するという意見があるが、元気な中間層なくしてどこから十分な需要が生まれるというのだろうか。

第10章 中国がアメリカを救わない理由

2009年のG20サミットでオバマ大統領は「アメリカ人にもっと貯金をさせ、中国人にもっと物を買わせる」ことによってアメリカを救うという考えを示した。

しかし中国はオバマの言う「再均衡」とは逆の方向に進んでいる。モノの生産は急増しているが、消費者が手にする分け前は減少しつつある。中国は生産を指向しているが、消費を指向していない。

中国は今後も固定相場制を維持し、元の対ドルレートを安値にとどめておくだろう。

以上のような理由により、米中貿易の「均衡を取り戻す」という課題は、成功の可能性が低い。

第11章 もう普通には戻れない

 根本的問題は、アメリカ人がもはや、アメリカ経済が生産できるありとあらゆるものに見合う購買力を有していないことにある。その理由は、国民所得が上位の富裕層に向かう割合が増えているからである。

破綻しているのは「経済の基本取引」なのである。そして、この取引を再度作り直すことこそが解決策なのだ。

オバマ大統領は、銀行救済と緊急経済対策は「大不況」が新たな「大恐慌」に転じるのを防いだ。しかし、まだ「経済の基本取引」に責任を持つまでには至っていない。

経済を成長させつつ、アメリカの「経済の基本取引」を回復させることが必要だ。

これは経済的課題であると同時に政治的課題でもある。抜本的に新しい経済が求められている。資本主義に新しいステージが必要だ。

第Ⅱ部 反動(Backlash)


第12章 2020年大統領選挙
第13章 経済をめぐる政治-2010年~20年
第14章 「前より減ること」に満足できない理由
第15章 損失の痛み
第16章 損失にのしかかる屈辱感
第17章 富が集中するように仕組まれたゲーム
第18章 怒りの政治


これから10年間で起きそうなことを検証してみよう(悪い未来予想)。

景気刺激策の後に、連邦準備制度理事会がマネーサプライを引き締め、金利を引き上げる。しだいに雇用創出が止まり、経済成長は鈍化する。結果として、アメリカの労働者の賃金はさらに低下し、貧困に直面することになる。

アメリカ人の多くが、自分たちが想定している生活水準からの大幅な低下を経験する。行動科学研究によると損失による苦しみの度合いは、獲得による喜びの度合いを上回る。生活水準の低下は強いストレスをもたらす。

特に中間層のアメリカ人にとって一番辛いのは「将来は今より物質的によい生活が出来るはずという期待」を諦めなければならないことだろう。それは大きな失望をもたらす。

しかも、富裕層との格差は拡大し、中間層は富裕層より格段に低い生活水準に自分を合わせなければならない。収入格差が広がり続けると、アメリカ人はさらに強い喪失感を感じ、自分が貧しくなったと感じ、不満を募らせる。

そして最後に「もしかしたらすべて仕組まれた経済ゲームではないか」という疑い、「巨万の富と権力を持つ人々が立ちはだかっているから、いくら頑張っても豊かになれないのだ」という考えが生じる。その感情は社会にとって相当毒のあるものになる可能性がある。出来レースで負かされたとなれば人は怒り狂う。

社会変動に対応する手段を持たず、以前よりも貧しく、弱い存在になったと感じる中間層は、企業や富裕層の巨額の献金、ロビイスト達の高額の報酬、政府が大企業の権益を増進していること、税の逆進性などにより強い関心を向けるようになる。

国民の「政治不信」が「政治への怒り」へと変化する。それに乗じて愛国主義や孤立主義、不寛容や妄想主義を伴う政党・政治家が登場する。

既に、アメリカ国内にはその兆候と思える出来事が生じはじめている。

アメリカは伝統的に、国民の経済的な苦悩や怒りが爆発する前に、改革に取り組んできた。今回も、それを行わなければならない。

第Ⅲ部 まっとうな取引を取り戻せ(The Burgain Restored)


第19章 何をすべきか - 中間層のための新しいニューディール政策

経済的不平等状態は、アメリカ人に二つの脅威を突きつけている。

ひとつは経済的脅威。アメリカの中間層が正当な分け前を受け取れない限り、この国の生産能力に見合う消費は起こらない。必然的に経済は低成長となり、巨大なバブルや極端な暴落を誘発しやすくなる。

もうひとつは政治的脅威。広がる格差は「大企業と金融業会は、大きな政府とぐるになって金持ちをよりリッチにしている」との国民感情とあいまって、扇動家達に出る幕を与えてしまう。彼らは目的のために全体の繁栄を犠牲にすることも厭わない。

では、どうすればよいか?そのための私案を述べる。私案は全ての問題を一気に解決するわけではないが、本来あるべき「基本的な取引」を取り戻すことに役立つだろう。

提言1 負の所得税(給付つき税額控除)の導入。

 提言2 炭素税の導入。

提言3 富裕層の最高税率の引き上げ。

提言4 失業対策よりも再雇用制度(賃金保険、職業訓練)

提言5 世帯収入に応じた教育振興権(スクール・バウチャー)の発行。

提言6 卒業後の所得水準に応じた学生ローン。

提言7 メディケア(公的医療保険)をすべての国民に。

提言8 公共財(公共交通機関、公園、公共保養施設、公立博物館、図書館)の拡充

提言9 政治とカネの決別(政治献金を「白紙委任」として候補者は誰からいくら献金されたかわからないようにする)

第20章 どうすればよいか

上述した対策は非現実的な政策ではない。実践的で実行可能なものである。しかし、実行するにはあらゆる社会階層からの協力が必要になるだろう。

オバマ政権は、経済的な決断を先送りしてきた。しかし、いまや中間層の三つの対応メカニズムも破綻しており、先送りは長続きはしないだろう。

中間層がモノやサービスを買えなくなれば、企業も年を追うごとに利益が出せなくなる。国民の怒りは企業経営者や富裕層に向かう。

現状を打破する解決策がとられなければ、アメリカ社会は「民主党と共和党」「リベラル派と保守派」の対立ではなく「エスタブリッシュメント層と怒れる大衆」の対立が生じるだろう

アメリカの政治経済には振り子が存在している。アメリカは今「経済成長の恩恵が限られた人に集中する時代」から「より多くの人にいきわたる時代」へと戻ろうとしている。

問題は、振り子が「どのように」戻るのかである。つまり、改革が繁栄の輪を広げるのか、それとも米国を他の社会から切り離し、経済を縮小させ、アメリカ人同士が争うような社会を目指して扇動主義がはびこるのか。

私(筆者)は前者に賭ける。アメリカには膨大な抵抗力と常識の蓄積がある。アメリカ人はこれまでいかなる国家的な危機に直面しても、なすべきことをやり、南極を乗り越えてきた。

国家の所得や富の大部分を獲得するごく少数の人々と、減っていく残りの富を分け合うその他大勢とが分断されているような国は、決して立ち行かない。経済活動の真ん中で「基本的な取引」が壊れたままでは米国の成功はない。

米国は改革することを選択するだろう。なぜなら、私たちは分別がある国民だからである。「改革」だけが分別ある唯一の選択肢なのだ。

(要約終わり)
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