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  タイラー・コーエン「インセンティブ 自分と世界をうまく動かす(原題"DISCOVER YOUR INNER ECONOMIST")」の要約

タイラー・コーエン著(高遠裕子訳)「インセンティブ 自分と世界をうまく動かす(原題"DISCOVER YOUR INNER ECONOMIST")」の要約。

インセンティブ 自分と世界をうまく動かす(amazon)


DISCOVER YOUR INNER ECONOMIST(amazon)


目次

第1章「バナナなら買える。けれど、市場にないものも欲しい」
第2章「世界をうまく動かす方法―基本編」
第3章「世界をうまく動かす方法―応用編」
第4章「芸術を真に楽しむために「足りないもの」は何か?」
第5章「シグナルは語る―家庭でも、デート中も、拷問のときも」
第6章「『自己欺瞞』という危険だが不可欠な技術」
第7章「とにかくおいしく食べるきわめつけの極意」
第8章「七つの大罪の市場―その傾向と対策」
第9章「クリスマス・プレゼントは世界を救うだろうか?」
第10章「内なるエコノミストとわれら文明の未来」


第1章「バナナなら買える。けれど、市場にないものも欲しい」

○経済学の核となる概念は「カネ」ではなく「インセンティブ」。「インセンティブ」とは「人間に行動をおこさせるもの、あるいはいくつかの選択肢のうちのひとつを選ぶよう促すもの」のこと。

○自分の望みをかなえるためには他人、そして自分自身を動機付けしなくてはならない。この問題を理解、解決するのが本書の目的。インセンティブを活用し、効率的に市場を利用する方法について考える。

○経済学の最も重要な考え方のひとつは「何かが足りないこと」にいかに対処するか。経済学の本来の目的は、日常の中で優れたものをより多く手に入れること。

○人間は誤った考え方にしがみついてしまいがち。世の中に対する見方、自分自身に対する見方ですら間違いだらけ。自分の中に「内なるエコノミスト」を持ち、良い経済学のレンズを通してものを見ると間違いに対処できる。

○「内なるエコノミスト」はひと目見ただけでは気付かないパターンに気付く。こうした隠れたパターンを発掘するのが本書の狙い。パターン認識はより良い判断をするための決め手となる。経済学を活用して世の中や自分に関係する出来事についての「パターン認識能力」を強化する。


第2章 「世界をうまく動かす方法―基本編」

○報酬としてカネをたくさん払ったから成果が上がるとは限らない。実験によると報酬のあるなしは、必ずしも作業の効率性と結びつかない。

○報酬と罰則を適用する際にはポイントがある。行動を選択する際に当人が自分の利害をどう認識しているのか―その見方を取り入れて初めてインセンティブは意味を持つ。このためインセンティブを組みあわせるだけではなく、影響を与えたい人たちの価値観や文化を知る必要がある。

○たとえばその社会では、人は基本的に「協力する」ものだと思われているか、それとも「裏切る」ものだと思われているか、といったことを知らないととインセンティブの設定がうまくいかない。

○追加的な努力で成果が著しく向上する作業については金銭的な報酬を提示するべき。事務作業や記憶すること、経理などの仕事では報酬やボーナスを与えることが作業能率向上に役立つだろう。

○内側からのやる気が弱いときにも金銭的報酬を提示すると効果的。

○報酬を受け取ることが社会的評価につながる仕事については、金銭的報酬を支払う。金銭的報酬によって自尊心がくすぐられ、ステイタスを感じるような仕事(俳優やヘッジファンドの運用担当者など)では効果的。

○金銭的な報酬が有効な時と、そうでない時を見極めることが大切である。

○状況が自分の力ではどうにもならないと思っている人に対しては金銭的報酬を提示するのは慎まなければならない。それはただ無力感を増幅させ、破壊的な行動や反抗に人を導いてしまう。


第3章 「世界をうまく動かす方法―応用編」

○当人が「主体的に関わっている」と感じられるかどうかは人間にとってとても大切。「自分が主体的に関わっていない」と感じた状態で、賞罰システムを作ってもうまくいかない。インセンティブを導入するなら敬意を持ってシステムをつくり、少なくとも「助言」と言う体裁をとるべき。

○主体性の感覚がいかに重要かはより良い世界をつくり、自分自身を向上させるための手がかりとなる。他人を管理しようとすると悲惨な結果を招きかねない。

○例:会議はなぜやるのか?

会議をすることで参加者に「自分は事情に精通し、決定に責任を負っており、主導権を握っている」という幻想を抱かせる効果がある。そのためには各人に発言の機会を与える必要がある。一見、時間の無駄に見えるが、それが会議に参加者をつなぎとめている。

○様々な種類の報酬と罰則をどう組み合わせ、混ぜ合わせるか。これは資本主義の持つ美点の一つ。資本主義は「人々の内なるやる気を引き出すシステム」。それには「自分が主体的に関わっている」という感覚を各人に持たせることも必要。

第4章 「芸術を真に楽しむために「足りないもの」は何か?」
 
○すぐれた経済学者は、現実の問題に取り組む際に「何が不足しているためにより良い結果が妨げられているか」と考える。
 
○社会が豊かになるにつれて重要なのはモノの不足ではなくなる。文明が高度に発達した現代社会で目立つ不測と言えば「関心」と「時間」の不足だ。
 
○「関心の不足」とはどういうことか。ある時点で「気にかけなくなってしまうこと」だ。たとえ音楽が好きでも、五時間も聞いていたら感覚が麻痺し、好きな曲でも頭痛の種になってしまう。
 
○文化を味わう上で、以下の二点を考えると良い。
 
1「何が不足しているのか」を自問してみる。カネか時間か関心が足りないのか。
 
2自分がそうありたいと願うほど、自分は文化に関心がないことを認めたほうがいい。「すべての文化を、それなりに楽しまなければいけない」と思い込んだら、結局は文化と名のつくものすべてを遠ざけることになる。
 
○美術館は「一般人を楽しませるために建てられたわけではない」ということを覚えておこう。美術館にとって大事な寄付者はお金持ちの有力者。有力者を喜ばせない美術館は、地盤が沈下していく。美術館のインセンティブは「一般人」ではなく「有力者」を喜ばせるということにあるのだ。
 
○有力者が求めるものは栄誉。だから美術館のレセプションは立派なのだ。
 
○美術にも経済学で言う「共有地の悲劇」がある。同じ絵を繰り返し目にしすぎたために、それらの絵に対する関心がなくなってしまうことが起きる。(例:モナリザ)
 
○音楽について。なぜ「新しい音楽」が生産されるのか。音楽の趣味には「自己愛」が関係している。音楽はアイデンティティーに関わるものであり、アイデンティティーの差異に関わるものである。
 
○文化の市場で買い手が求めているのは、芸術の新たな変革。つまり「新しく見えるもの、少なくとも仲間に新しいと見られるもの」を好む。
 
○ミシガン州の白人のティーンエージャーがヘビメタ好きに生まれついているわけではない。どんなジャンルの音楽を好むかは、自分が何者であり、何者でないのか、自分は世界のどこに属しているのかを再確認する役割を果たしている。同じミシガン州のティーンエージャーでも黒人ならラップに愛着を覚えるだろう。
 
○何かに反抗する、という欲求から逃れられる人はほとんどいない。反抗は「主体性を持つための方法」なのだ。音楽の買い手は若者なので、音楽市場は常に次なる「反抗の手段」を必死に探している。
 
○いい音楽と出会うには「自己愛」から抜け出す。ほんの少しでも「自己愛」から抜け出せれば、驚くほどの一流音楽が待っている。ただし一回聴いただけでは新たな愛は生まれないかもしれない。10回でも足りないかもしれない。要は信じることだ。この新しい音楽が、自分と自分の生活になんらかの意味を持つのだと心から思うのだ。
第5章「シグナルは語る―デート中も、拷問の時も」

○人は誰しも、自分のことを良く見せたい。人にどう見えるかは、各自が送る「シグナル」の総和であり、いかにその時々の状況にあった「シグナル」を送れたかで決まる。シグナリングとは一種の個人広告だ。

○多くのシグナルでは「メッセージは隠されている」ことを覚えておくこと。メッセージはあからさまではないし、またそうであってはいけない。興味を持ち、意識すればするほど分かるサインであり、ふつうは隠されていたり間接的であったりする。だからシグナルを送るのは難しい。自分の意図を伝えるためにシグナルを使うが、シグナルを使っているとは見られたくないからだ。

○経済学でいう「シグナリング」とは、「コストのかかる行動を選択することでメッセージを伝えること」を指す。バレンタインデーに妻に花を買うのは、シグナルを送っているのであって真冬に妻が花をほしがってると本気で思っているわけではない。

○シグナリングは「どれだけコストをかけたかがすべて」だ。立派なダイヤの指輪なら、花束よりも効き目があるだろう。口先だけで済むアドバイスは、どれほど貴重でも同じ効果は挙げられない。

○例:女性を口説く場合

相手に自分を「手に入りにくくする」という戦略がある。これはシグナリング理論でいう「分離均衡」を満足させることができない。言い換えれば「勝者と敗者を選別する」ことができない。自分を手に入れにくい存在にすると女性が振り向いてくれるというなら、世捨て人が大人気になるはず。それよりもまずは相手に気付いてもらわないと始まらない。

ジョークや歯の浮くようなお世辞は支持を得られない。博愛精神や寛大さ、スポーツマンシップ、「文化」や豊かであることをほのめかす口説き文句は支持を得た。

肝心なのは何を言うかではない。それより大事なのは、それらしい服を着て、それなりのふるまいをし、社会的な文脈を理解していることを示すこと。

○人間はなぜシグナリングを始終発しないのか。問題は、シグナリングが資源を無駄にするということだ。

○自分に有利になるようにシグナルを発するのが大切。シグナルの意味を深く理解できるようになることも大切である。

○例:子どもが親を評価する時

子どもは親を評価する時、どれだけ効率的に成長の過程を支えてくれたかではなく、どれだけ自分のために時間を割き、手間をかけてくれたかで判断する。家庭ほどシグナリングが重要な場所はない。家庭ではカネというインセンティブの役割は限定的であり、決定的な役割を果たすのはシグナルだ。

○例:嘘の見破り方

真実を語っているのだと他人が納得できるような態度を取るのは簡単なことではない。一貫性のある良くできたうそを見抜ける人はほとんどいない。

単純な嘘の手がかりに注目しなくてはいけない。ある人間のホンネを聞きたければ、「周りがどう思っているか」を聴けばいい。特定の考え方を信じている人は、他人も同意してくれるとか、同じような経験があると思いがちである。

人は他人について語るとき、往々にして自分のことを語っている。

もうひとつのホンネを聞きだす方法は「助言を求める」こと。他人にどうすべきかを助言する時、人はありのままの自分や願望、価値観を露にしやすい。

○カウンター・シグナリングというものものある。たとえばスパムメールに「読む価値があるかどうかはわかりません」とタイトルをつけると、却って読みたくなる。

○いいニュースがあるときは、隠しておいたほうがいいことがある。遅かれ早かれニュースは漏れる。いいニュースは利害関係のない第三者に報告してもらう。そうすると、それを耳にした友人は「彼は控えめ」「他にもいい話を隠しているかも」と感心してくれる。これもカウンター・シグナリング。

第六章 「自己欺瞞」という危険だが不可欠な技術」

○自分を欺くことーこれは幸せな結婚生活を送るための秘訣である。わかれない夫婦は、ばら色のメガネで過去を振り返る欺瞞の夫婦である。幸せな夫婦生活を送るには、いつ忘れるべきか、そもそもいつ気付かないでおくべきかを知っておく必要がある。

○夫婦に限らず、人間は己を良いものとして評価する。人はたいてい、自分が平均より賢く、平均より運転がうまく、平均より「いい人間」だと思っている。

○心理学では「抑鬱リアリズム」について書かれたものがある。欝状態のときの思考プロセスは往々にして非合理だが、社会での自分の立場に関して言えば正確である場合が多い。様々な分野で並みの実績しかあげていないと認め、多くの点で平均低下だと気付く可能性が高い。(つまり欝でない人はそれだけ自己評価が高い)

○事実はどうであれ、自分を高く評価している人のほうが、大きな仕事を成し遂げる。自己欺瞞は進化した防御システムなのかもしれない。このシステムがあるからこそ不安になったり、気が散ったり、目標を見失ったりしないのだから。人が人生をまっとうできるのは、他人に見られ、評価され、値踏みされ、非難されているという事実をたえず無視しているからだ。

○人生を巧く乗り切るコツは、ふだんは緩衝材として自分を欺き、何か問題にぶつかった時だけ、対象を選んで自己欺瞞をやめることだ。

○自己欺瞞の最たるものは主体性への欲求、あるいは主体性を感じていたいという欲求がある。実際はそうでもないのに、飛行機より自動車のほうが安全と思っている人が多いのはなぜか。自動車のハンドルは自分が握っている。よからぬ事態が起きても自分が対応できる。人は自分でコントロールしているという感覚がすきなのだ。

○人は、自分に関係の無いことに関しては合理的な選択ができる。わが身に降りかかることだと、不安や恐れが理性を追い出してしまう。

○チャレンジ精神はよいものだが、ときには避けることの出来ない悲惨な事態が起こりえること(それを幾分緩和させることはできること)を認めるべきだろう。

○実例:なぜ画家のバイヤーは贋作を見分けられないのか、それは多くの場合バイヤーの「プライド」と関わっている。

○本物かどうか見分ける自信がないことは自分には分かっている。しかし、本物に見えるし、本物を所有するのは気持ちのいいことだ。ならば買えばいい、という発想。

○プライドと真贋の問題は、芸術に限らず政治にも通じる。多くの「偽者」「イカサマ師」が公職についている理由も説明できる。

○例:「万人を大事にする政治」というスローガンを人々は好む。だが、それによって逆に多くの人々を大事にする政策を拒否することになることもある。アメリカでは保険に入っていない人が多いことは問題になるが、医学の基礎研究予算が少ないことはあまり問題にされない。

○人生への情熱を保ちつつ、決定的に重要な問題については、ぎりぎりのところで欺瞞的にならないように努力すべき。「わたしの原稿はうまくかけている」「自分にどんな服が似合うか分かっている」と言うかわりに「私は誰よりも他人のアドバイスに耳を傾けるのが得意だ」と言ってみよう。

第7章 - とにかくおいしく食べるきわめつけの極意

○家庭料理をうまく活用するコツは、外では食べられない料理、家出つくったほうが安上がりで済む料理、味がいい料理を見極めることにある。レストランの食事と家庭料理をどう組み合わせて活用するかを考えよう。

○まず最初にメニューの選び方について。おしゃれな高級レストランでは「メニューの中でいちばん注文したくないもの」「いちばん食欲をそそらないもの」を考え、それを注文しよう。

○なぜなら「なじみのメニュー、よく聞くメニュー」は家で食べても高級レストランで食べても「そこそこの味」になる。それでは意味がない。高級レストランのメニューは考え抜かれたもの。奇妙な名前の料理、聴いたことのない料理を選べば興味や味の幅を広げられる。

○家庭では新しい料理に挑戦しないほうがいい。まず一流レストランでで同じ料理を食べ、味を覚えてから作ったほうが効率的。

○レストランでは「このお店で最高の一皿は」と聞くのも良い方法だ。

○エスニック料理(外国料理)を楽しみたい場合、その地域で「店の数が多い国の料理」が一番おいしい。競争がプラスに働くから。

○倫理的問題はともかくとして、貧富の格差が激しい国ではおいしい料理を食べやすい。富裕層に向けて作られる料理を、安い労働力を使って作れる地域だから。

○逆に家では「貧富の格差の少ない、平等な国の料理」を覚えると良い。そういう国の料理屋はおいしくならないから。

○店の「賃料」にも注目しなければならない。各地区の賃料相場を知っていると、良いレストランを見つけるのに役立つ。

○安くてうまい店を見つけるなら「近くに高い賃料を払う顧客のいる、賃料の安い地域」を探すのが良い。

○食事をするなら郊外の小さなモールのほうが実はおいしいものが食べられる可能性が高い。

○賃料が安いレストランはリスクをとらずに冒険ができる。料理がヒットしなくても高い賃料が残るわけではない。

○世界中のどこへいっても屋台や露店の料理がおいしい理由はここにある。

○家ではどんな料理を食べるべきか。ヘルシーな料理を心がけるべき。体に悪いものは外で食べたほうがいい。外食のほうが概して体に悪いものを出すから。

○レシピどおりにしようと思わないこと。レシピ本を出版しているコックのインセンティブを考えよう。「自分の腕を見せる、人々の印象に残るシェフ」になるために出版された本のレシピは当然難しくなる。レシピの作成者の狙いを見定め、活用すること。

第9章「クリスマス・プレゼントは世界を救うだろうか?」

○社会のためになることをしたいと思ったとき、我々は真の動機を見極め、社会を良くするための行動と、自己満足にすぎない行動を峻別しなければならない。

○乞食に施しを与える事は効果的ではない。乞食に施しを与えると、彼らに「もっと恵んでももらおうと」いう気を起こさせる。そのために彼らは「縄張りを死守するために金を使う」「同情を引くためにわざと体を傷つける」「仕事につかない」といった努力をしてしまう。

○施しを与えるなら、困っていても乞食のような努力はしていない人に与えるのが効果的だ。つまり施しなど期待していない、貧しい人に施したほうがよい。

○慈善活動に寄付する場合に効果的な方法:これと思う活動や団体が見つかったら、とことん付き合う。また、自分の名前(寄付者氏名)を他の団体に教えないように頼む。手紙やダイレクトメールを送付しなくて良いと頼む。こうした行動で団体の財政状況を良くできる。

○もうひとつの方法は、「社会性の高いもの」「多くの人がその時に注目しているもの」に寄付すること。多くの人が注目し、関心を持っている活動、いわば社会の「強化テーマ」には人やお金が集まりやすくなり、効果性が上がる。ただし、そうした「強化テーマ」には自分の寄付したい金額の一部を寄付すればよい。

○つまり「自分の気に入ったテーマの慈善活動」と「社会で「強化テーマ」になっている慈善活動」の両方に乗っかるのが最も効果的であるといえるだろう。

○人間が寄付をする目的は、他人を助けることではなく、その活動に帰属することかもしれない。慈善事業では影響力のある大きな組織を支援したいと考える人は少なくない。成功している人や組織と同じ活動に参加しているという満足感のため、あるいは活動全体の崇高さや、活動で築かれる人間関係のために寄付をする。

○多くの慈善活動は、純粋な意味で人助けになっていないケースが多い。

○チップを渡すことは、慈善活動としては効率性が低い。チップを受け取るのは既に職のある人たちであり、チップの制度があるのは比較的豊かな国の人が多い。彼らを優先的に救わなくてはいけない理由はないだろう。

○ジョエル・ウォルドフォーゲルの調査によればプレゼントを贈られた人は、もらったプレゼントの価値を実際の価格より低く見積もる傾向がある。

○したがって、贈る側に利己的な満足がなければプレゼントの純価値は生まれない。つまりプレゼントは「与える喜び」があって初めて価値が生まれる。

○モノを所有するより、何かを経験したほうが長く記憶に残るという調査結果がある。CDを贈るよりもコンサートチケットのほうが、車を買うための金を渡すより海外旅行に連れて行ったほうが、贈り物としての効果性は高いだろう。

○慈善事業よりも優れた方法としてマイクロ・クレジットがある。マイクロ・クレジットとは、たいてい100ドル以下の小額を、世界の貧困層に融資する制度だ。世界中で何百万人もの人が小規模な事業を立ち上げたり、医療費を払ったりするために利用している。

○マイクロ・クレジットの利点としては以下の点があげられる。

○マイクロ・クレジットによって小規模な企業が興れば地域経済は潤う。起業した人は持続的なスキルを獲得する。返済義務があるので規律が生まれ、仕事を続ける習慣がつく。また(踏み倒しがなければ)原資がなくならいので、継続的に融資できる。寄付によって利益を生む事業が始まり、何年にもわたって支援できる可能性がある。

○また、途上国の場合マイクロ・クレジットで資金を融資したほうが効率的に資金を事業に活用できる(親族に借りると、親族が後で分け前を期待し、資金が分散してしまう)

○現在では、遠くまで行かなくても参加できる「kiva」(インターネット上で途上国の人々に小額融資できるサイト)などの新たなマイクロ・クレジット制度がある。


第10章「内なるエコノミストとわれら文明の未来」

○市場を円滑に機能させるには、人間の価値観が必要である。

○西欧世界が成功してきたのは、自己批判や個人の権利、科学、政府は国民のためにあるのであって、その逆ではないといった考え方を大切にしてきたからだ。

○市場もまた文化的な基礎を必要としている。「内なるエコノミスト」は、社会秩序を支えるのに役立つ。それは自由な社会を維持し、拡大させるのだ。

(終)











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